久保工業所での修行

【①片付け、自分の作業スペースの確保】

自分の作業スペースを確保するため、おびただしい数の段ボール箱を開き、中を確認し当面必要なものとそうでないものに区別して整頓する作業を3週間行いました。万年筆やボールペンのインク替え芯や各メーカーの多様な部品類が山ほどありました。私が見てわかるのはどのメーカーかだけで、何がいつ頃の製品のどのタイプの部品かは全く分かりませんが、久保氏はすべて把握しておられました。

ペン先工程治具
ペン先工程治具

【②各種治具の作成】

「これを作るんですか」という感じでしたが、まず自分の作業に必用な治具を作れるようになるのが職人の基本であり今のやり方が正しいとは思わずにどうすればもっとよくできるか考えながらやってくださいと言われ、自分なりにいくつもの治具の改良に取り組む日が続きました

古いぺ先への代替イリジウム付け
古いぺ先への代替イリジウム付け

【③ペン先加工調整技術】

治具の改良を継続しつつ次に取り組んだのがペン先の加工調整です。

古いスチール制のペン先に代替イリジウムをアーク放電により溶着させ、研磨・切り割り・磨きの作業を繰り返しました。

どうすれば書きやすくなるか試行錯誤の末、師匠のお手本に近づける努力で急速に技術が向上しました。


真鍮での試作加工
真鍮での試作加工

【④真鍮で一連の作業】

真鍮の板を切断し、圧延、打ち抜き、熱処理、穴開け、刻印打ち、形成、切り割りまでのイリジウム付けを除く一連の作業を繰り返しました。一番悪戦苦闘したのが、刻印打ちで、ハンドプレスのセッティングに何日もかかることも。師匠も同じことで苦労されていたと聞いて頭が下がりました。治具の改良に頭を悩ませる日々が続きました。

 

刻印打ちのセッティング
刻印打ちのセッティング


【⑤18金地金での一連の作業】

【貴金属業者との調整】

18金の成分調整、地金の厚み、サイズ等キメ細かに調整し依頼します。

【いよいよ18金地金での作業】

基本的に真鍮と同じ作業ですが、金を扱うとなぜか手元が狂い簡単な作業でミスを犯します。

真鍮でうまくできたのになぜ金では失敗するのか。金属としての硬度ももちろん違いますが、金を意識するあまり無意識に力みが生じミスをするようです。

これを克服するのかなかなか難しい。自分のパフォーマンスを淡々と発揮できるまでには何事もそうですが場数が必要です。

師匠曰く「簡単に出来るはずがない、努力と経験が必要です」

この言葉に随分と救われました。

アーク放電でのイリジウム付け
アーク放電でのイリジウム付け

【最難関その①イリジウム付け】

形成した18金地金 の先端にイリジウム合金の粒をアーク放電により溶着させますが、なかなか上手く着きません。師匠がまずお手本に一つ付けたのち、同じようにやってみますが、まず着かない、ついても斜めに着く。師匠は斜めに着いたものを真っすぐに治してくれますが、同じようにしても出来ない。口では伝えられないコツをつかみ切れないもどかしい日々が続きました。

インクの通り道、切り割り
インクの通り道、切り割り

【最難関その②切り割り】

ペン先先端に溶着したイリジウムを切断しさらにハート穴まで切れ目をいれますが、超硬度のイリジウムがなかなか切れない切れるようになっても一個切るのに30分以上かかったり、一枚数千円の砥石を何枚も破損することも。これができないとインクの通り道ができない。

自分の不甲斐なさと申し訳なさに心が痛み、温かく見守る師匠にただただ感謝

また、切り割り機材の0,01㎜単位での調整が難しい。一週間かかってできないことも。投げ出さず丁寧に根気強くと言い聞かせる日々が続きました。



【ペン芯の研究】

ペン芯をエボナイトで作成してくれる町工場の職人さんがほぼいなくなり、以前は一つ数百円であったものが今は数千円と高価で入手しづらくなり、自作できるよう久保氏や万年筆関係業者から宿題をいただき、5年程前から研究を始め、継続し機能向上に努めています。

【インク吸入機構の研究】